巨大なナメクジの思想

The thinking of a gigantic slug

語呂合わせ3150

この記事は素数大富豪 Advent calendar 2024の10日目の記事です。

昨日は、さしみさんの記事「9枚出しまとめ」でした。

greenplus.hatenablog.com

 

本記事では、素数大富豪と類似した分野と思われる円周率暗記の世界を少し紹介し、その後これまでとは違った語呂合わせを利用して素数を覚えます。語呂合わせ再考ですね。

初見の読者のために説明しますと、素数大富豪愛好家、プレイヤーたちの多くは語呂合わせを利用して日々素数を暗記しています。僕は素数大富豪の名手ではありませんが、素数の語呂を考案しながら覚えるのはとても好きです。語呂のついた素数は覚えやすい。現実世界で「ごろつき」はやくざ者のことですが、素数の世界では「語呂付き」はみんな友達です。

一方、僕は新しい素数暗記方法を探すのも好きです。参考になりそうな分野を勉強していたところ、円周率暗記の世界チャンピオンは日本人の原口あきらさん(以降、原口先生)という方であり、2006年になんと10万桁の暗誦に成功しているということを知りました。詳しく調べると、その基本はやはり語呂合わせであるとのことです。原口先生の偉業に驚くと同時に語呂合わせの凄さを改めて認識し、また素数大富豪との親和性も強く感じました。

例えば、原口先生の語呂合わせでは、円周率の冒頭部3.141592653538979238は「さー、安心得んと国許去った儚きその身は」と変換されます。*1

一見して、語呂合わせと言っても数字と文字の対応が不思議だと思いました。少なくとも僕には思い付かなかった対応があります。著書を拝読しましたところ、興味深い『原口式数字と文字の対応表』を発見しましたので紹介します。*2

オ、ラ、リ、ル、レ、ロ、ヲ、オン等、オー等

ア、イ、ウ、エ、ヒ、ビ、ピ、アン等、アー等、ヒャ等、ヒャン等、ビャ等、ビャン等

ツ、ニ、ノ、フ、ユ、ヅ、ニン等、ニー等、ニャ等、ニャン

サ、ソ、ミ、ザ等、サン等、サー等

シ、ス、セ、ヨ、ジ等、シン等、シー等、シャ等、シャン等、ジャ等、ジャン等

コ、タ、チ、テ、ト、ダ等、タン等、ター等、チャ等、チャン等

ヌ、ム、モ、ブ、ムン等、ムー等、(、)

ナ、ネ、マ、メ、ナン等、ナー等、「、」

ハ、ヘ、ホ、ヤ、ワ、バ等(除くビ、ブ)、パ等(除くピ)、ハン等、ハー等、バン等、バー等

カ、キ、ク、ケ、ガ等、カン等、カー等、キャ等、キャン等、ギャ等、ギャン等

 

変換表中の「オー」等とは、ラー、リー、ルー、レー、ローを示しています。また「アン等」とはイン、ウン、エン、ヒン、ビン、ピンを示しています。この他の「等」も同様です。

これを見て使い方がわからないとか、辟易するという方も多いと思いますが、僕は「なんてロマンチックなの...」と思いました。

この対応表の優れた点はいくつもありますが、最も素晴らしいと思うのは「五十音が完備である」点です。これは後で説明します。

比較のため僕が今使っている対応も見てみましょう。素数大富豪を覚えたての頃にプレイヤーたちの記事を読み漁り、身につけた対応です。

オ、ヲ

A、ア、イ、エ、ヒ、ビ、ピ

ツ、ニ、フ、ヅ

サ、ミ、ザ、ス

シ、ス、ヨ

コ、ゴ

ロ、ム、ラ、リ

ナ、チ

ハ、ヤ、ワ

キ、ク

10

T、ト、テ

11

J

12

Q

13

K

8855QQKAババアゴーゴー救急カー451082571893仕事場に来ないヤクザなど、馴染みの語呂素数がいくつも表現された、直観的で素晴らしい対応です。*3

話を戻しますが、原口先生の対応表は僕や素数大富豪プレイヤーたちの対応と決定的に違う点があります。全ての五十音が隙間なく数字に対応づけられているのです。そのため、どんな日本語の文章も数字の列に変換可能です。これは「完備化されている」とも言える対応ではないでしょうか。原口先生はご自身の方法を『翻訳もどき』と呼んでいますが、対応表が完備化されているからこそ為せる技でしょう。原口先生は円周率10万桁を覚える最中に、何度もこの対応表に工夫を加え、洗練したとのことです。だからこそ、信頼できる対応表だと思うのです。

また、対応のさせ方も目を見張るべきものがあります。「2 = ユ」、「5 = チ」、「7 = マ,メ」など、文字の形の類似からと思しき対応は目から鱗でした。ラリルレロは全て0に担当させる、子音の同じものを同じ数字に丸ごと担当させるなど、全く思い付かなかった手法も取られていました。

僭越ながら僕も原口先生の対応表を用い、次のような詩作をしてみました。全ての句が四つ子素数で構成された素数詩です。

 

素数詩『春夏秋冬』

 

 88987x  7106125x

 11653x  4131265x

 

 13546x  7261012x

 810853x  1191151x

 

 29947x  1281241x

 29587x  8310139x

 

 22534x  1053109x

 46747x  1242139x

 

(翻訳もどき)

 

早き花 舞うるもいづこ

いい婿さん 宵さえ飲むと

 

海越しむ 夏燃える日に

吠えるは誰そ 響くいい声

 

夕陰縞 緋の杯に酔い

肉と花 野菜を鬻ぐ

 

冬こそよ 日追うて寂び多く

詩も馴染め 日の詩の一作

 

6枚出し6桁6枚出し7桁6枚出し8桁四つ子素数表より

 

原口先生の対応表を使えば、僕程度の者でも素数詩が詩作できてしまうのです。語呂合わせ最高ですね。定型詩になるよう、6枚出し四つ子素数に統一しました。*4

詩作すると対応表に慣れてくるので、皆さんもどんどんやってみましょう。

以上です。今回は語呂合わせにフォーカスした記事としましたが、冒頭でもお話しした通り記憶全般の勉強もしており、面白い方法をたくさん見つけ実践しているので、次回の記事で紹介します。*5

 

明日は二世さんの「素数大富豪ルールの多言語化について」です。海外展開できたらアツいですね。外国語話者プレイヤーが増えたら外国語の素数詩もきっと作ってくれるでしょう。それでは。

 

◾️参考文献

*1:これは『旧北海道遍』であり、松前藩の武士が旅に出る物語の冒頭だそうです。

*2:ご本人のブログにコメントし紹介の許可を頂いております。先生、寛大なご対応をありがとうございました。

*3:主に初心者向けに語呂素数を紹介するという口実で、もりしーさんの古の記事も掘り返しておきます。語呂だけでなくストーリーと語呂素数表を作り、素数の世界を展開して覚えるという方法を早くも2017年の時点で行っています。

*4:学びを深めるために...プレイヤーを目指す読者様方は去年のdiLさんの記事などの6枚出し攻略記事をご覧になられると知識が補強されるかと思います。diLさんの記事内ではちさんの記事、3TKさんの記事も紹介されています。

*5:予告。数字の列を区切って人(person)、動作(action)、物(object)にそれぞれ変換しイメージ化するPAO法と、イメージを場所に置いて覚える場所法という方法を紹介します。

10桁パラレル四つ子素数は存在しない

 

はじめに

この記事は素数大富豪Advent Calendar 2024 - Adventar 4日目の記事です.

昨日はもりしーさんによる素数音楽に関する報告記事・音楽編でした.

prm9973.hatenablog.com

本報告はその第二楽章・数学編です.まだ音楽編を読んでいない方は先方から読んでいただければ幸いです.

我々は素数音楽に役立つ素数を探していた際に偶然見つかった数学的な命題を証明し,課題解決に役立てられたため報告しようと思います.その命題は次のものです.

$10$桁パラレル四つ子素数は存在しない.

パラレル四つ子素数という聞き慣れない単語が入っていますが,私ともりしーさんによる新造語ですので悪しからず.

用語を定義する

読者の皆様は四つ子素数関連の議論に馴染みがないかもしれませんので,用語を定義します.

(定義1.1)
$n$を自然数とする.$10n + 1,10n + 3,10n + 7,10n + 9$がすべて素数であるような組$(10n + 1,10n + 3,10n + 7,10n + 9)$を四つ子素数という.
 
(例1.2)
$101,103,107,109$はすべて素数であるため,これらの組は四つ子素数である.

他にも$(191,193,197,199),(821,823,837,839)$などが四つ子素数です.素数大富豪プレイヤーの間では慣例的に,四つ子素数を$10x,19x,82x$のように表記されることが多いです*1.

次に唐突ですがレピュニット数の定義を確認します.

(定義1.3)
全ての桁が$1$である整数をレピュニット数という.$k$桁のレピュニット数を$Rk$と書く.

意外にも今後の議論にレピュニット数を多用します*2.

それではパラレル四つ子素数の定義です.

(定義1.4)
$n$が$k$桁であり,$(10n + 1,10n + 3,10n + 7,10n + 9)$と$(10(n + Rk) + 1,10(n + Rk) + 3,10(n + Rk) + 7,10(n + Rk) + 9)$がいずれも$k + 1$桁の四つ子素数のとき,これらをパラレル四つ子素数という.

わかりにくいのですぐ例を見ましょう.$k = 6$とした場合です.

(例1.5)
$(1764221,1764223,1764227,1764229)$と$(2875331,2875333,2875337,2875339)$はいずれも四つ子素数であるため,これらはパラレル四つ子素数である.

組同士の差がレピュニット数$R6$の$10$倍(つまり$1111110$)になっています.

我々がパラレル四つ子素数に興味を持ったのは,このような組を多く見つけて素数作曲に応用するためでした.

実際,プログラムを用いて以下の$7$桁パラレル四つ子素数を見つけることができました.

(例1.6)
$(176422x,287533x)$
$(746548x,857659x)$

もりしーさんの記事で視聴したことのある四つ子素数ですね*3.

このような面白い組は他にも見つかるのでしょうか.

3で割った余りに注目する

$k = 6$としたことで$7$桁パラレル四つ子素数が見つかったため,次は$k = 7$として$8$桁パラレル四つ子素数を探してみてはどうかと考えるのは自然かもしれませんが,これは$3$で割った余りを考えるとありえません*4.

(補題2.1)
$3$を法とする.
$(10n + 1,10n + 3,10n + 7,10n + 9)$が四つ子素数のとき,$n ≡ 1$ である.

「$3$を法とする」というのは,この後の議論においては$3$で割った余りのみを考えるという宣言です.例えば$n ≡ 1 $というのは「$n$は$3$で割ると$1$余る数」という意味の合同式です.

$n ≡ 0$のときは$10n + 3と10n + 9$,$n ≡ 2$のときは$10n + 1$と$10n + 7$が3の倍数になってしまうため,これらが四つ子素数にならないのです.

この事実から次のことがわかります.

(補題2.2)
$(10n + 1,10n + 3,10n + 7,10n + 9)$と$(10(n + Rk) + 1,10(n + Rk) + 3,10(n + Rk) + 7,10(n + Rk) + 9)$がパラレル四つ子素数のとき,$Rk$は$3$の倍数であり,したがって$k$は$3$の倍数である.
 
(証明2.3)
$Rk$が$3$の倍数でないとき, $n ≡ 1$ かつ $n + Rk ≡ 1$ となることはない.
よって(補題2.1)から(補題2.2)が示された.

我々が$k = 6$の場合から探索を始めたのは,そのとき$Rk$が$3$の倍数になるからだったのです.パラレル四つ子素数を探すためには,$3$桁ずつ飛び飛びで探すことが必要です.よって我々は次に$10$桁四つ子素数を探し始めました.

事件

ここで実際のエピソードについてお話させてください.

$7$桁パラレル四つ子素数を探すのに$30$秒もかからなかったため,$10$桁パラレル四つ子素数もすぐ見つかると高を括っていました.桁が上がったことでこのような組が減るにしても,$1$時間も待てば$10$組〜$100$組ほど収穫できるのではないかとの予想を立てていました.しかし、待てど暮らせど一つも見つかりません.プログラムを走らせていたiPadは何も出力せず沈黙していました*5.これはモヤモヤする...

まずプログラムの不備を疑いましたが誤りは見つかりませんでした.よって,自然と次の疑問に移行します.

「$10$桁パラレル四つ子素数は存在しないのではないか?」

7で割った余りに注目する

本題に戻ります.突然ですが,$7$で割った余りに注目していきます.

(補題3.1)
$7$を法とする.
$(10n + 1,10n + 3,10n + 7,10n + 9)$が四つ子素数のとき,$n ≡ 1$ または $n ≡ 3$ または $n ≡ 5$である.
 
(証明3.2)
$7$を法とする.
$n ≡ 0$ のとき$10n + 7 ≡ 0$
$n ≡ 2$ のとき$10n + 1 ≡ 0$
$n ≡ 4$ のとき$10n + 9 ≡ 0$
$n ≡ 6$ のとき$10n + 3 ≡ 0$
よって(補題3.1)が示された.

(補題2.2)を見ていれば,類推から理解できると思います.

では,次の補題はどうでしょう.

(補題3.3)
$7$を法とする.
$Rk ≡ 1$ または $Rk ≡ 6$ のとき,パラレル四つ子素数は存在しない.
 

ここが証明のヤマですので丁寧にいきましょう.意味としては「パラレル四つ子素数の「差」となる部分$Rk$を$7$で割った余りによっては,パラレル四つ子素数がそもそも存在しなくなるよ」というようなことを主張しています.

図を見ながら証明を読むと構造が分かりやすいと思います.

(証明3.4)
$7$を法とする.
$(10n + 1,10n + 3,10n + 7,10n + 9)$が四つ子素数であるとする.(補題3.0)より,$n ≡ 1$ または $n ≡ 3$ または $n ≡ 5$ である.$Rk ≡ 1$ のとき,$n + Rk ≡ 2$ または$n + Rk ≡ 4$ または $n + Rk ≡ 6$ である.同様に、$Rk ≡ 6$ のとき,$n + Rk ≡ 0$ または$n + Rk ≡ 2$ または $n + Rk ≡ 4$ である.よって(補題3.1)より(補題3.3)が示された.

($Rk ≡ 1$のとき:緑矢印
($Rk ≡ 6$のとき:青矢印

$n$と$n + Rk$はどちらも同時にオレンジ四角で表示した数(つまり$1,3,5$)でなくてはならないのに,$Rk ≡ 1$,$Rk ≡ 6$の場合で$n$をオレンジ四角にすると$Rk$を足す操作*6によって白四角(つまり$0,2,4,6$)に必ず移ってしまうのです.

$10$桁パラレル四つ子素数の話に戻りますが,$R9$(つまり$111111111$)を$7$で割った余りは、嘆かわしいことに$6$になります*7.

よって,$10$桁パラレル四つ子素数が存在しないことが証明されました.

一方$R6$は$7$の倍数ですから*8, $n$ と $n + R6$は$7$で割った余りが等しくなり,$7$桁パラレル四つ子素数が存在するための必要条件が満たされるのです.

おわりに

いかがでしたか?

今回,我々は$10$桁パラレル四つ子素数が存在しないことを証明することができました.

素数大富豪に馴染みのない読者も想定して本報告を書きました.ですので『用語を定義する』と『$3$で割った余りに注目する』の段落はとりわけ丁寧に書いたつもりですが,かえって冗長に思われたかもしれません.この記事がきっかけで素数大富豪やその近辺の話に興味を持って頂けることを願います.

私ともりしーさんの共同研究は素数音楽に関するものでしたが,予期せぬ形でこの数学的な課題を発見し,それを解決することで不必要な素数探索に時間を浪費するような事態を避けることができました.これを読んでいただいたあなたも素数作曲する際に数学的な障壁に出会うことが意外に多いと思います.そのようなときはこの報告を思い出し,解決の参考にしていただければ幸いです.また証明に不備などありましたらご指摘もお願いします.

素数音楽のアイデア出しや問題解決なども,ご相談にはいつでも乗りますのでコメントなどでお気軽にお問い合わせください!

明日は岩淵夕希さんによる『オロチ数の拡張1:スジの話(仮)』となります.オロチ数は四つ子素数と似て,複数の素数を覚えられる組ですね.お楽しみに!

*1:$x$に関する多項式のようにも見えますが,違います.末尾部分を$q$とする流儀(つまり$10q,19q,82q$...など)もあるようですが,それも素晴らしいと思います.

*2:レピュニット数については素数大富豪プレイヤーでもあるtsujimotterさんが教育的で素晴らしい説明を多く書かれています(リンクはこちら).このようなレピュニット数の数学的に面白い性質は我々の本報告では現れず,パラレル四つ子素数の「差」がレピュニット数(の$10$倍)になっていたので簡略表記として用いたに留まります.しかし,その「差」が音楽的な平行移動に対応するのには,果たして背景に数学的構造があるのか,それともそうでないのかと興味をそそられます.

*3:動画はこちら.

*4:この議論は素数大富豪素数の探索に慣れた読者には退屈かと思いますが,それであれば読み飛ばして頂いても構いません.

*5:PythonistaというiOSアプリを使っています.スマホタブレット素数研究をするのに便利ですよ.

*6:まさに平行移動のことです.

*7:$111111000$が$7$ の倍数であること(後述)を用いれば計算が楽になります.

*8:$1001$が$7$の倍数であることを知っていれば$1001 * 111$より明らかです.

素数の地獄に音楽は絶えない

ある感覚が別の感覚を惹起することを共感覚という。共感覚は何かに利用できないだろうか。例えば素数暗記のために。昔バイトしていた塾に0から9までの数字一つ一つに色が対応しているという子がいたが、それを年号暗記に活用するようなことはなかった。情報はやたらと繋がらない方が良いということもある。数字と色を対応させることの応用は僕には思いつかない。
 
もりしーは8121086131210xを音で覚えているらしい*1。これは共感覚だ、と僕は思った。人のもつ多くの知能の中でも、音楽は特に不思議である。素数暗記に音楽を応用できると直観するのに、これは十分すぎるエピソードだった。
 
ピアノを習うと、五本の指には親指から順に1から5までの指番号という番号付けがあることを学ぶ。楽譜には指番号が書いており、その通り演奏すれば概ね正しい運指となる。指番号は指から自然数への写像である。音楽の勉強は写像の勉強であり、ピアノを習っていた人は既に写像を知っている。しかし、指番号通りに演奏しないこともあるし、指番号だけがわかっていても音楽は構成されないだろう。この写像素数暗記に応用されないが、音楽には他にも、「数への写像」がありそうである。
 
もっと僕の興味を惹く写像として、音楽には「度数」というものがある。これは音と音の間隔(ピアノの白鍵で数えて)に応じた自然数である。例えばドとドは1度、ドとレは2度と数える*2。ドを基準、つまり1に対応すると決めると、以降の鍵盤に対応する自然数も度数に応じて帰納的に決まるのが分かるであろう。
 
メロディ、リズム、強弱、音色、コードなど、音楽を構成する要素は数多い。それらの要素のうち、素数と対応させて考えるのが面白そうなのは「モチーフ」だと考えた。モチーフとは曲の顔となるフレーズのことである。ベートーヴェン『運命』の有名な「ダダダダーン」はまさにモチーフである。
 
曲のモチーフだけを取り出して考えよう。リズムやコードを一旦無視すれば、先に説明した度数表示だけが残る*3。特に曲に用いる音を低い方からドレミファソラシドレの9音に限れば、桁上がりを気にせず十進法の自然数と読むことができる*4。逆に、自然数を桁ごとに取り出して、度数を表す数列と見做すこともできる。これにリズムやコードを「作曲」によって与えれば、自然数は音楽になる。これは半分はアルゴリズムであり、半分は創造行為であると言えよう。
 
この「音楽への写像」はどんな自然数に対しても行うことができるが、僕たちの関心は素数であるため、写像の定義域は素数の集合とするのが望ましい。これが素数作曲である。
 
素数を覚えるテクニックとしては語呂素数が有名であるが、これは素数から日本語への写像と言える。語呂合わせをすると暗記がし易くなるのを僕たちは経験的に知っている。その理由は明確には言えないが、きっと言語能力と記憶能力は密接に繋がっているのだろう。一方、人間の音楽能力も記憶能力と密接に繋がっているに相違ない。覚えようとしていない歌を覚えていることや、数回聞き齧った曲が頭の中で鳴り続ける「脳内再生」の経験は誰にでもあるだろう。言語能力と同じように、人間には音楽能力が予め備わっている。この音楽能力を素数暗記に応用することが僕の悲願である。
 
2866998244xは四つ子素数である。僕はもりしーとの素数大富豪でこの覚えにくい素数を出し、「この素数は何だ」と驚かれたことがある。これは僕が去年の秋頃に素数作曲し、今年の秋頃の素数大富豪で突然「鳴った」素数である*5素数作曲の実用化は可能である。それは、11桁もあり絵札も絡まず語呂合わせもできない地獄の素数に、きっと鳴るだろう。
 
限られた時間、踊り出す手指、思考に割り込む雑音。無粋な文章になる前に筆を折らねばならない。この文章は本来なら音楽であるべきだったのだ。しかし僕たちは具体例を素描しておきたかった。僕たちは十進法で素数の名を叫ぶ。エピソード記憶がいい。素数そのものは個性を持つことを勿体ぶるけれど、素数の名は音楽に繋がっていける。それは玄関になる。同じ曲を繰り返し聴く。僕たちは何度でも素数に出会い直せる。
 

 
これを読んで下さった皆様、ありがとうございました。
この記事は素数大富豪 Advent Calendar 2022 - Adventarの4日目の記事です。昨日はもりしーさんの記事
でした。素数作曲はあまり理解されていないようなのであえて被せました。もりしーさんに僕が素数作曲の先駆者と恐れ多くも紹介されましたが、エピソードを読んでくださればわかるように先駆者はもりしーさんです。本家を差し置くことはできない。
明日はnishimura(@icqk3)さんの「花子しばく問題に関係する話題」です。よろしくお願いします。

*1:もりしーと素数大富豪をしているときにその話を聞き、ピアノを弾いて確認した。僕はもりしーとシェアハウスで同居していた。

*2:ドとドは距離がゼロなのだから度数はゼロとするのが自然と思われるかもしれないが、そのような定義ではない。

*3:リズムやコードを無視するという操作は作曲の逆とも言えるので、「脱作曲」とでも名付けられるのではないか。

*4:エピソードとして8121086131210xを例に挙げたが、これは桁上がりを考える場合である。すなわち、数列(8,12,10,8,6,13,12,10)をドソミドララソミと見做す。このように桁上がりを考えると二通り以上の解釈があるため、逆の操作を一意に定めることができなくなる。

*5:https://twitter.com/kynameq/status/1449708211452329989?s=46&t=VlQ-gNqBGUPXkXlOjDRmdw